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  • 執筆者の写真平野 洋平

医学教育トランスフォーメーションへの挑戦①

更新日:2023年2月21日


 私が代表取締役を務めるMedPop株式会社では、「将来の医療を支える医学生や初期研修医たちに、より良い学びの機会を提供したい」という思いから、医学教育のあり方をPBL(Project Based Learning)を基盤とした構造へ根本的に変革する「医学教育トランスフォーメーション」に挑戦しています。

 まずは、現在の医学教育現場が抱えている課題と現状を確認したいと思います。


現代の医学教育が抱える課題

 大学のうち医歯薬系学部は、他学部と異なり期間が6年間です。医療者は患者の健康に関わる専門職であり、学ぶ内容も膨大であるため、通常より長い期間学習すべきという考えなのでしょう。しかし私の経験上、4月の時点での初期研修医(医師1年目)は、実際の医療現場ではまるで素人のようです。6年間の膨大なインプットで医学知識を身につけ、医師国家試験も突破して医療現場に来ているのですが、患者を診療し、治療するという実行能力に関しては、ほとんどのケースでレベル1に近い状態です。

 6年間で実際の医療現場で活躍できる人材が育っていないという事実。何故このようなことになってしまっているのでしょうか。医学部附属大学病院の教育者としての自身の経験から考えたとき、その理由は、「自分を主体とした患者診療プロセスを学生が経験したことがない」からだと考えています。


試合のできない医学生

 日本の医学生は、学生生活の前半で講義を主体とした基礎医学、臨床医学の内容を学んだ後、CBT(Computer-Based Learning)評価試験と呼ばれる共用試験に合格すれば、いよいよ病院での実習をスタートさせます。しかしこの病院実習ですが、日本の医学生は実習中に医業を行うことはできません。そのため、実習の実態としては、問診や診察などの部分的な経験は除くと、医師の仕事を見学したり、あるいは割り当てられた患者の既に記載されたカルテをみて、それをまとめて発表するなどの学習に着地していることが多いです。教育を受ける場所は病院、でも患者の診療プロセスを自分ごととして考えて、連続性をもって実行する機会は得られていないということです。

 これは例えるならば、プロ選手を目指しているサッカー選手が、一生懸命練習をしてようやくスタジアムに来る権利を得たのに、まさかのスタジアムで見学のみで試合ができないようなものです。個別にドリブル、パス、シュートの練習をどんなにしても、実際の試合体験を積まない限り、その「使い方」は学ぶことはできません。「試合のできない医学生」。このルールを変えない限り、プロになりピッチに初めて立った時に何もできないであろうことは想像に難くないでしょう。


政府のルール変更と医学部教育機関の活発な動き

 このような状況を、教育側が黙ってみている訳では決してありません。インプット主体の学習に警鐘を鳴らし、文部科学省は効率の良い学習のためのアウトプット型の教育、アクティブラーニングを推奨していますし、医学部附属大学などの教育機関でもアクティブラーニングへの取り組みは近年盛んになってきています。

 特筆すべきなのは、今年令和5年4月1日には、医師の指導監督の下で今後医学生が医業を行うことができるという医師法改正が施行される予定だということです。この法改正は、現状の医学教育現場の課題解決の大きな糸口となりうると思っています。


それでも医学教育現場は簡単には変わらない2つの理由

 このような政府や医学部教育機関の動きは素晴らしいことだなと思う反面、それでも私は、医学生が主体となって連続した診療プロセスを学べる機会は限られるのではと推察しています。その理由は以下の2つです。


1:教育者は多忙な臨床医であること(現場で学生に指導しながら教育する時間が取れるのか?)

 医療現場での教育は、普段から実際の診療に従事している医療者でないと教えられないので、必然的に教育者=忙しい臨床医になります。臨床医は、常日頃より膨大な患者の外来診療、入院患者の診療に追われている中、医学生という全くの初心者に時間をゆっくりとって教えてあげることが可能でしょうか? 自分がやった方が早い判断されてしまうケースもたくさん出てくるでしょう。「学生は医師の指導監督の元に医業をすることができる」というのは、教育者側の時間的制約の環境改善無くして簡単なことではないと思います。

2:医学生の診療行為に対する患者の健康リスクと認容性の問題

 医師の指導の下とはいえ、現場経験を全く積んでおらず、就業者としての連続性もない学生が医療に従事することに関して、患者診療の安全性は大丈夫でしょうか。いざ学生が診療行為を行うチャンスがあったとしても、患者側にとっては自身の健康リスクからみると、喜ばしいことではないでしょう。医学生が医療行為をやってこなかったこれまでの歴史もあり、この急激な変化に患者側の認容性は簡単には追いついてこない可能性があります。

 サッカーの例に戻すと、今年から「監督がちゃんと見てくれてるなら初心者でも試合をしていいよ」という環境ができます。大きな前進です。しかし、監督は忙しすぎてなかなか試合を組んでくれないかもしれません。また、「負けられない試合」に、簡単に初心者を試合に出すことができるでしょうか。


まとめ

 今回、現在の医学教育における課題を私の経験をベースにまとめてみました。「試合のできない医学生」。それをなんとかしようと政府や医学教育者は奮闘しています。今年から、法的に医学生が医業をできる環境に変わるのはとても素晴らしいことだと思います。一方で、現場での変化はそう簡単なものではなさそうです。


次回のブログでは、この課題に対する解決策として弊社の取り組んでいるソリューション、「アプリを利用した疑似診療体験プラットフォーム」についてお話しさせていただきたいと思います。令和5年の法改正を良いタイミングとして、現場で早期に活躍できる医療者の増加をブーストさせるためのソリューションです。ぜひ、「医学教育トランスフォーメーションへの挑戦②」のブログも引き続き読んでいただけると嬉しいです。



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